新型コロナウイルス感染後咳が止まらない・息切れする
オミクロン派生株が流行した2022年夏以来、新型コロナウイルス感染後に咳が止まらない方が増えてきました。背景には第7波の感染者数が非常に多かったことがあると思われます。新型コロナ感染後の咳は、一般にコロナウイルス感染後遺症として認識されることが多いのですが、以前からあった咳喘息や気管支喘息の再燃や、潜在的にあった慢性気管支炎や肺気腫の悪化、さらにはコロナ肺炎後の間質性肺炎による咳まで病態は様々です。現状ではすべてのコロナ後の咳や息切れの原因が判明しているわけではありません。
1~2.コロナウイルス罹患後の咳の診断と検査
3. コロナウイルス罹患後の咳、息切れの原因と治療
1.どうやって診断していきますか
まずは問診をしていきます。コロナに罹ったのは何時で、咳は何時頃から出だしたのか、咳が何をしたときに悪化するのか、咳が悪くなる時間などを尋ねます。また喘鳴(ゼイゼイいうこと)があるかなど様々なことを伺います。受診前に自分でもチェックしてみてください。次に肺の音を聴くなどの診察をしていきます。
2.どんな検査をしますか
通常胸部単純写真、肺機能検査、呼気一酸化窒素の測定などを行います。コロナ発症後、在宅療養期間が1週間に短縮されましたが発症から10日間はウイルスを排出している可能性があるため発症から10日間経過前に来院された場合すべての検査を行わないことがあります。また息切れを伴う場合には新型コロナ感染症に伴う心筋炎による心不全や心膜炎が原因になっている場合がありますので心電図検査や血液検査を必要に応じて行います。検査で異常が認められた場合、心筋炎による心不全や肺塞栓症(新型コロナ感染の合併症として血栓が肺の血管に詰まる肺塞栓症があります。この肺塞栓症も新型コロナ感染後の息切れの原因になることがあります。)などの合併症がないか、血液検査や心臓超音波検査を追加することもあります。
レントゲン写真で異常な影を認める場合や肺機能検査で異常がある場合にはCT撮影を追加することもあります。
3.新型コロナウイルス罹患後の咳、息切れの原因と治療について
3-1 コロナ肺炎後の間質性肺炎
新型コロナでは一部の人にウイルス性肺炎を起こします。コロナ流行期の初期には重症例がありましたが、ワクチン接種を受けた人が多くなったことやウイルスの変異により重症化例は減ってきています。ただ重症化リスクを持っている人やワクチン接種を受けていない人ではいまだに酸素吸入が必要なくらい悪化するケースが発生しています。このような重症な肺炎を起こした場合には咳や息切れが残ることがあります。新型コロナ感染後の間質性肺炎に関しては、残念ながら特効薬はありません。呼吸リハビリなどを行い、運動耐用能の向上を図ります。
ケース1 新型コロナ罹患後、一ヶ月後に息切れ、咳のため受診した。心電図異常があり、心臓の動きに一部障害を認めたが、3か月ほどで心臓の動きはもとに戻ったが息切れは続いた、約4か月ほどのリハビリでほぼ息切れは消失した。CTは来院時のもので両側の抹消肺に淡いスリガラス影をみとめる。
3-2 コロナ感染に伴う喘息の悪化や新たな発症
当院で多いのは感染に伴い従来あった気管支喘息や咳喘息の増悪です。新型コロナ感染はウイルス感染の一種です。「風邪をきっかけに喘息が悪くなる」ことは従来からよく経験することです。肺機能検査を行い、肺機能が低下していないか、呼気一酸化窒素が上昇していないか、さらには血液検査によるアレルギーの原因を探します。呼気一酸化窒素を測定して高い値ならば喘息の悪化の診断は比較的容易です。治療は吸入ステロイドを中心とする通常の喘息の治療に準じます。ただし喘息は気管支のアレルギー性の炎症なので一日では治りません。継続した治療が必要です。また喫煙は喘息の悪化を招きますので禁煙が必要です。
ケース2 若年男性 コロナ罹患後1週間後くらいから喘鳴を伴う咳が特に夜間にひどくなったため来院。来院時にも喘鳴(ヒュウヒュウいうこと)があり呼気一酸化窒素が高く、肺機能が低下していたため気管支喘息と診断した。なお小児喘息や過去に気管支喘息と診断されたことはなく、コロナ感染を契機に新たに気管支喘息が発症したケースと考えられた。吸入ステロイドによる治療を開始し、咳や喘鳴は収まり、治療続行中。(本人の同定ができないように一部経過などは変更してます。)
3-3 既存の肺気腫や慢性気管支炎の悪化
ほとんどの場合は喫煙者で見られる病態です。現在タバコを吸っている人に限らず、過去にタバコを吸っていた人にも咳が出現することがあります。肺気腫や慢性気管支炎は一般に思われているよりは頻度の高い病気です。今までに診断されていなかった場合もあります。新型コロナ感染を契機に病気が悪化して見つかる場合があります。肺機能検査で低下がみられる場合が多く、さらに肺機能が悪くなると運動時の息切れを伴う場合があります。肺機能検査や胸部レントゲン写真のほかにCT検査で肺気腫の程度を評価することも必要になります。
3-4 コロナ感染による咳
頻度的にはこのような例が最も多いかもしれません。胸部レントゲン写真や身体所見にも特別な所見がなく、咳が治らない例です。痰を伴う場合と痰が出ない場合の両方があります。病理学的な詳細な機序は不明です。長いと3か月からそれ以上続く場合もあります。鎮咳薬や喀痰の調整薬を内服しながら経過をみていくことになります。基本的には自然経過にて改善してゆきます。
3-5 流性食道炎による咳
咳や胸痛を訴える方の中に逆流性食道炎が悪影響を及ぼしている場合があります。胸やけなどの明らかな胃酸の逆流の症状がある場合には診断は容易ですが、中には胃酸の分泌を抑える薬剤を2か月程度内服してみないとわからない例もあります。胸やけや呑酸(胃酸が戻ってくること)がある場合には担当医に伝えてください。
3-6 喫煙
タバコを吸うことは咳を悪化させます。また喫煙はコロナ罹患時の重症化因子の一つです。新型コロナ感染後に咳が残る場合にはご自身の禁煙並びに受動喫煙も含めタバコの煙を吸わないように注意してください。
3-7 コロナ肺炎による咳
新型コロナによるウイルス性肺炎を急性期には起こしていることがあります。この場合は急性期の咳で徐々に改善していくことが多いのですが、一部のケースで遷延することがあります。
このケースは急性期の新型コロナ肺炎です。わかりにくいかもしれませんが、向かって右の下肺野に淡い影を認めます。
新型コロナに罹った後に咳が残る状態の原因がすべてわかったわけではありません。また上記のような病態が複数重なっていることもありますので、病状を見ながら診療を行っていきます。
なお発症から10日以内の新型コロナ感染の方は必ず発熱外来の枠で診察します。通常の時間帯に来られても診察できませんでご了承ください。
4 コロナ後遺症の頻度
以下のデータは第77回 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年2月3日)
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1013388/1020964.htmlより引用、改変しています。
元のデータは都立・公社病院「コロナ後遺症相談窓口」の電話相談でのデータです。
味覚障害、嗅覚障害、倦怠感などの症状のほかに咳や呼吸困難感を訴えて相談する例が各世代、男女ともにあり、咳は20%以上あることがわかります