喘息の薬

1. 喘息の治療薬

喘息の薬は大きく分けて、長期管理薬(コントローラー)と発作治療薬(リリーバー)に分けられます。①の炎症を抑える薬がコントローラーになります。②の気管支が狭くなるのを防ぐ薬の代表格が長時間作用型気管支拡張剤です。③の気道を速やかに広げる薬がリリーバーです。

2. 喘息の長期管理薬(コントローラー)とは

コントローラーとは、長期の喘息のコントロールを目標にした薬です。 野球で言えば先発ピッチャーにあたります。長期の喘息のコントロールを目標にしますので、副作用がなく、長期に服用できる薬がコントローラーになります。
大きく分けるとコントローラーは、

  • ステロイド剤(吸入ステロイド剤が主体)
  • テオフィリンの徐放剤
  • 長期時間作用型β2刺激剤
  • 抗アレルギー剤

の4つに分けることができます。

2-1. 吸入ステロイド剤

ステロイドが発見されたのは1930年代です。炎症を抑える作用があることが分かり、まずは関節リュウマチの患者さんに使われ効果をあげました。喘息にも使われましたが、当時は注射や経口薬しかありませんでしたので、副作用のため長期間投与を続けることは困難でした。
吸入ステロイドは文字どうり錠剤や注射ではなく、吸入することで服薬する薬です。吸入薬という剤形をとっているのは、より少ない薬の量で炎症の起こっている気管支にだけ効かせたいからです。吸入ステロイドは経口ステロイドに比べ、副作用は、はるかに少なく、長期投与の安全性も高いため、現在の喘息治療の中心的薬です。吸入ステロイド剤は吸入できるようにエアロゾールや粉末状になっており、吸入具に入っています。使い方に若干の慣れが必要です。

全身投与のステロイドと吸入ステロイドの違い

吸入ステロイドの歴史はすでに60年以上の歴史があります。1951年にコーチゾンを吸入器を使って喘息を治療したのが始まりです。その後より吸入しやすく、副作用の少ない薬剤への改良が続けられ、吸入具もより吸いやすい、扱いやすい器具にとって代わられ今日に至っています。商品名としてはアズマネックスツイストヘラー(モメタゾンフランカルボン酸エステル)、、フルタイドディスカス、フルタイドディスクへラー(内容はいずれもフルチカゾンプロピオンサンエステル)、キュバール(ベクロメサゾンプロピオン酸エステル)、パルミコートタービュヘイラー(ブデソニド)があります。各メーカーにより吸入器具が異なり、操作方法が違います。処方を受ける際には使い方の説明をします。
気をつけていただきたいのはこれらの吸入ステロイドは即効性がないことです。吸入ステロイドは気管支喘息の発作が出るのを予防し、喘息をコントロールする薬です。喘息の発作を治療する薬ではありません。喘息発作が出た場合には即効性のある気管支拡張剤や場合により経口薬や注射剤による全身へのステロイド投与を行います。

吸入ステロイドは気管支喘息の気道の炎症を抑えます。

2-2. テオフィリンの徐放剤

テオフィリンは気管支拡張作用を持っていることが知られていました。アミノフィリンはテオフィリンと化学構造式が似ており、気管支拡張作用があり即効性がある為、日本では現在も主として注射剤として急性増悪に使われています。ヒトでは1922年に喘息患者さんにはじめて投与されました。この薬剤もより副作用の少ない、長時間効く剤形への改良が続けられ、現在では1日1回ないし2回の服用で済むようになっています。抗炎症作用もあることが知られています。

2-3. 長期時間作用型β2刺激剤

長時間作用型気管支拡張剤は文字どうり長時間にわたり気管支を拡張する作用があります。このため1日1回ないし2回の使用で済ませることができます。気管支喘息には単独で投与されることはありません。もっぱら吸入ステロイドとの合剤として使われてます。吸入ステロイド/長時間作用型気管支拡張剤合剤(略してICS/LABA合剤とよばれます)として使われています。現在アドエアエアゾール、アドエアーディスカス(フルチカゾン/サルメテロール)、シムビコート(ブデソニド/ホルモテロール)、フルティフォーム(フルチカゾン/ホルモテロール)、レルベア(フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ビランンテロールトリフェニール酢酸)の4種類が日本では保険適応になっています。

2-4. 抗アレルギー剤

喘息で使われる抗アレルギー剤は主としてロイコトリエン受容体拮抗薬が現在主流となっています。ロイコトリエンは肥満細胞から放出される炎症を起こす化学物質です。ロイコトリエンは炎症を引き起こすだけでなく、また気管支を収縮させます。さらには重症喘息の場合ロイコトリエンは好酸球を細気管支に引き寄せ、気管支の過敏性(少しの刺激で気管支が収縮すること)を亢進させます。
ロイコトリエンは大きく2種類に分かれ、、一方は好中球から分泌されます。また二つ目のグループのシステイニルロイコトリエンは好酸球や肥満細胞と関連が深く、喘息に関与しているのはこのシステイニルロイコトリエンです。システイニルロイコトリエンは気管支の平滑筋の受容体に選択的に結合します。現在使われているロイコトリエン関連薬はこのシステイニルロイコトリエンが受容体に結合するのをブロックすることで気管支の炎症を抑え、また気管支の収縮を抑制します。ロイコトリエン受容体拮抗物質とも呼ばれ薬としてはオノン(プランルカスト水和物)、シングレとキプレス(同一薬で販売元メーカーが違うだけです。薬品名はモンテルカストナトリウム)が広く使われています。特に吸入ステロイドと併用して用いると有効性が高いとされています。一般に使われている抗ヒスタミン剤は喘息に関して有効性の根拠には乏しいです。

3. 発作治療薬(リリーバー)とは

一方発作治療薬(リリーバー)は、野球のリリーフピッチャーと同じで、喘息の発作が出たとき、すぐに症状を軽快する目的で用いられる薬剤です。リリーバーを辞書で見ると、救援者、救済者とでてきます。 ピンチの時のお助け役です。ただし長期管理薬を使わずに、これだけに頼っていると、喘息のコントロールは悪くなってしまいます。リリーフピッチャーを1回から投入しないのと同じです。
時にこの発作治療薬だけで喘息をコントロールしようとする患者さんがいますが、危険ですから止めましょう。それは重篤な喘息発作が起こる危険性がるあること、喘息の根本である気管支の炎症が治らないためにいつまでも発作治療薬を使い続けなければならないことによります。

3-1. 短時間作用性吸入β2刺激薬

気管支にある交感神経受容体に働き、気管支を拡張させます。ドライパウダー、エアロゾール、ネブライザーによる吸入の剤形がります。目安として1日に5回以上吸入療法が必要な場合、治療の強化(長期管理薬の増量、変更等)が必要です。また1時間までに20分おきに吸入を繰り返すような場合は、重篤な発作がおこっているので医療機関を救急受診して下さい。

3-2. 経口ステロイド

ステロイドは炎症を抑えます。短時間作用型気管支拡張剤を用いても効果が不十分な場合、短期間用います。経口ステロイドの短期間の投与では副作用のでる可能性は低いです。ただし胃潰瘍や糖尿病は悪くなることがあるので注意が必要です。

3-3. テオフィリン薬

テオフィリン薬を喘息の発作に用いる場合は注射剤として用いることが多いです。ネオフィリン(アミノフィリン)が代表的な薬剤です。

3-4. 短時間作用性吸入抗コリン薬

短時間作用型性吸入抗コリン薬を中等度から重症の喘息発作時に短時間作用性β2刺激薬とともに用いることがあります。アトロベント(イプラトロピウム)やテルシガン(オキシトロピウム)が用いられます。