咳喘息とは

1~3. 咳喘息とは
4~6. 咳喘息の治療

1.咳喘息の考え方

咳喘息は最近よく目にする病気になりました。この病気に対しての認知度が上がっているためでしょう。一方で咳喘息と過剰に診断される弊害も稀にですが経験するようになってきています。咳喘息は喘鳴(ゼイゼイいうこと)や息苦しさを伴わず、咳だけを唯一の症状とする病気です。日本では慢性の咳の原因としては最も頻度が高く、日常診療でもよく遭遇する病気です。咳喘息と気管支喘息はどこが違うのですかとよく質問を受けますが、非常に大雑把に言えば、気管支が細くなって息が苦しくなりゼイゼイといい、時に重篤な病態になるのが気管支喘息、反対に気管支がそれほど細くならず喘鳴がなく咳だけの場合は咳喘息です。咳・くしゃみのイラスト

2.咳喘息の症状

咳喘息で起こる咳は、通常寝る前から早朝にかけて悪化することが多いです。特に寝る前に布団に入ってしばらくすると、あるいは早朝から起床後に咳が出てくる場合が典型的です。通常、咳は痰を伴わないか、あるとしても少量の場合が多く白色をしています。よく気管支喘息と咳喘息が混同されていますが、喘鳴を伴う場合には気管支喘息です。これは気管支喘息では気管支の分泌物が多くなり、さらに気管支が狭くなるために出る症状です。夜間には喘鳴があっても、医療機関を受診する昼間には喘鳴が消失していることが多いため、時にこの区別は難しいことがあります。悪化要因には風邪をひくこと、冷たい空気(例えばクーラーの風)、会話や電話、歌を歌うこと、運動、受動喫煙を含めての喫煙、季節の変わり目の温度差の大きい天候、花粉症や黄砂などが悪化要因として挙げられます。

3.咳喘息の診断

① 喘鳴を伴なわい咳が少なくとも3週間以上続き喘鳴を伴わないこと ②気管支拡張剤が有効で、気管支拡張剤の投与で咳が軽快すること、が咳喘息を疑う症状になります。ただし初発の咳喘息の場合、咳が始まってから一週間以内に医療機関を受診することも多いため咳の持続する期間だけで診断することは難しい場合もあります。検査では、末梢血の好酸球という白血球が増加している、呼気中一酸化窒素が増加している、喀痰の好酸球が増加していることが診断の参考になります。これらの検査と上記の臨床像とを合わせて診断します。また咳をきたす疾患はたくさんあるので、他の病気を否定していくために呼吸機能検査や胸のレントゲン写真を通常とることが多いです。

4.咳喘息の治療

咳喘息の治療方針は基本的には気管支喘息と同じで、吸入ステロイドが中心となります。現在吸入薬はたくさんの種類が出ており、患者さんの好みや声枯れなどが出にくい薬を選択していきます。個人差があるため、吸入ステロイドであれば何でもよいというわけではありません。また咳喘息は軽症の方で数か月の治療のみでその後数年程度症状が再発しない方から、一年を通じて持続的に治療を要する方まで様々です。これは実際に治療を行って経過をみていかないとわかりません。さらに重症例では吸入ステロイドのほかに長時間作用型気管支拡張剤、抗ロイコトリエン薬、徐放性テオフィリン薬を併用していきます。最近は吸入ステロイドと気管支拡張剤の合剤が同一の吸入デバイスに入ったものが発売されていますので便利になってきました。また咳喘息の中には難治例があり、抗トロンボキサン薬を使う場合もあります。

5.咳喘息と診断され、治療を続けているがよくならない

一概には言えませんが、咳喘息の治療を行っているのに効果が出ない際には次のようなことを考えていきます。① 診断が異なる ② 吸入薬の用法、用量が間違っている ③ アレルギー性鼻炎や逆流性食道炎などの合併症がある など様々な要因が考えられます。単一の原因だけでなくこれらが重なっている場合もあります。吸入薬は錠剤などの飲み薬と異なり吸入デバイスを用いるため、うまく吸入できておらず薬の効果が出ていない場合も時に見受けられます。また適正な薬を処方されていても咳の出るときにしか吸入していない、短時間作用型気管支拡張剤しか吸入していない、などの理由もあります。また吸入ステロイドは比較的速く効く薬ですが、効果が出るまでに最低でも1~2週かかる場合もあります。

咳は重症になると非常に苦しく、時に肋骨骨折をきたすこともあるほどです。なるべく早く症状は押さえたいと医療者側も考えていますので、咳でお困りの際は遠慮なくご相談ください。

吸入器を使う男の子のイラスト

6.咳喘息の治療はいつまで必要か

咳喘息の重症度は様々です。軽症例から重症まで様々なケースがあるので一概には言えません。軽症例の治療を何時まで続けたらよいかに関してははっきりとしたデータがありません。ただし季節性が明らか場合は(毎年特定の時期になると咳喘息が再発する)症状が始まる前から治療を開始し、その季節が終われば治療を中断することもあります。ただ中には当初軽症例であったものが通年性の重症例に移行することもあるので注意はしておく必要があります。また当初咳喘息と診断していても長期間にわたって観察していると30%から40%が典型的な気管支喘息に移行したという報告があるので注意が必要です。どのようなケースが咳喘息から気管支喘息に移行していくのかは十分には解明されていません。