喘息治療は根気よく
気管支喘息の治療はいつまで必要か?
気管支喘息はその昔気管支が収縮して起こる病気と考えてこられました。このため治療の主眼は気管支を拡張させる薬剤が主体となっていました。しかし30年前ぐらいから気管支の収縮は気管支の炎症に基づくもので、この炎症を抑えることがより抜本的な治療であるという考えに変わってきました。気管支の炎症を抑えるのには現在のところ吸入ステロイドが第一選択薬剤になっています。これはステロイドを全身投与することが無いため、ステロイドの副作用を最小に抑えなおかつ薬が効いいてほしい気管支にのみ薬剤が到達するという優れ物です。
このような吸入ステロイド薬はその後も発展を続け、長時間気管支を広げる薬剤と一緒に吸入できる製剤が登場してきました。これらは吸入ステロイドと気管支拡張剤の合剤と呼ばれています。商品名では具体的にはアドエア、シムビコート、ルティフォーム、レルベアがこれに当たります。これらの薬剤は気管支拡張作用がある薬剤を同時に吸入するので、効果は比較的早くから実感できます。特にシムビコートやフルティフォームに含まれている気管支拡張剤のフォルモテロールは即効性の薬剤なので「気管支が広がった」感じが実感できます。気管支拡張剤の作用で気管支が広がり症状が良くなるのが分かります。
ただここに誤解が生じる余地が有ります。気管支喘息の本態は特殊なタイプの気管支の炎症で、この気管支の炎症を抑えてしまわないと気管支喘息が治ったわけではありません。患者さんにしてみれば喘息の症状がなくなれば治療はもう不要と考えるのはむしろ当然かもしれません。しかし病気の本体である気管支の炎症は治っていないのです。気管支が広がって呼吸が楽になると、あたかも気管支喘息が治ったように考えてしまいがちですが、気管支の炎症が治るには下図のように一年以上かかることがわかっています。また呼吸機能が良好な状態で落ち着いてくるのも2,3ヶ月かかります。
呼吸器科医としてはなるべく早くに呼吸困難感や咳、喘鳴といった不快な症状をとり除くために気管支拡張剤を含む合剤を使って、それから腰を落ち着けて治療を継続していきたいというのが本心です。医師と患者さんとの認識の違いは治療の期間をどれくらい置くかにも関わってきます。当然ながら医師は気管支の炎症を完全に鎮めるまで長めに治療を行おうとし、患者さんは短めな治療を受けたいと思われます。
このようなことで中途半端な治療におわってしまい、すぐに気管支喘息が再発してしまい最初からやり直しをするのは治療する側としても本望ではありません。せめて呼吸機能が安定するまでは治療は続けて経過をみたいものです。それぞれの患者さんの重症度やアレルギーの関与、増悪因子さらには社会的背景も考えながらいつまで治療を続けるかは決めて行きます。残念ながら気管支喘息の治療には今のところ完治はありません。気管支喘息の治療は気管支の炎症が収まるまで根気よく続けましょう。