喘息発作への慣れは恐ろしい
重症の喘息発作に慣れてしまった患者さんの例
先日、「ここ10日間程調子が悪くなった」とのことで重症の喘息患者さんが来院されました。平地を歩いても息切れがしており、重症の喘息発作でしたので、入院をすすめましたが絶対に入院はしたくないとの強い希望があり、喘息の治療を外来で始めました。治療は喘息の急性増悪期(喘息が急に悪くなること)に準じたステロイドの注射等々です。幸いに喘息のステロイドへの反応は良く3日程でほぼ喘息症状は良くなりました。
本来は、この状態はまだ、喘息治療の入り口で喘息コントロールができているとは言えません。あくまでも喘息の応急処置です。何度も書きますが、喘息の治療の目的は喘息発作の治療をすることではなく、喘息の発作を出さないようにして、喘息のために日常の生活が妨げられないようにすることです。後日「先生、喘息を気にせずここ何年かぶりにぐっすり寝られました。」と言われました。「何年かぶり」ということは逆に考えると睡眠が妨げられるような重度の夜間喘息の発作が何年かにわたり起き続けてきたことと推察されます。喘息の応急処置をして初めて、今まで喘息発作が起きて喘息のため苦しんでいたことがわかったわけです。
この患者さんにとっては多分、中等以上の喘息発作がずっと出ており、たまたま耐えられない位の重症の喘息発作が出て、ようやく本格的な喘息の治療を受けたということです。「まだ、喘息の治療はこれからですよ」と言うと「エッ、まだ私の喘息は治ってないのですか」と問い返されて、アレレと思いましたが、喘息の治療目標、喘息死の危険性、吸入ステロイドの吸入の仕方、ピークフロメーターの使用方法についての説明をしてと、まずは一通りの喘息治療への導入の道筋をつけました。
病気への慣れは恐ろしいことがあります。喘息死はいまだに年間2000人近く起こっています。交通事故死が4000人を割り込んでいることを考えるといかに喘息死が多いかがわかります。人間の体は不思議なもので、どんな状態にも慣れてしまいます。特に喘息への慣れは怖いことを感じた日でした。